[テレワーク] テレワークの課題(デメリット)を体系的に分類

 昨年、3月に突然襲ってきた「新型コロナウィルスの大流行」。

 政府は感染防止を理由に企業にテレワークを要請し、企業も応える形で急速にテレワーク化が加速しました。

 急な働き方の変化によって、現場では様々な課題(デメリット)が発生しています。これら1つ1つの課題に対してどう対処すればよいかわからないという悩みを持っている方もいると思います。

 そこで、本記事では、 テレワークの課題を体系的に分類してみました。

 テレワークの課題を分類体系の下で理解することで、各課題の理解が深まり、有効な解決や対策を講じることができます。

 テレワークとリモートワークは、正確には異なる概念ですが、本記事では同じものとみなします。

目次

内部課題と外部課題

 テレワークを推進する上で発生する課題は大きく2つに分類されます。

内部課題 個人の課題
外部課題 組織の課題

 内部課題は、従業員やフリーランサーなどの「個人」に主に原因がある問題です。

 外部課題は、従業員が勤める会社・団体や所属する部門、フリーランサーに仕事を依頼する雇用主など「組織」に主に起因する問題です。

 個人と組織のどちらにも原因がある課題(例:部門内のメンバーのコミュニケーションがうまく行かない)は、主原因がどちらに存在するかで分類します。個人と組織のどちらにも同じ程度に原因がある課題(例:残業が増える)は、内部課題と外部課題それぞれに課題として分類します。

 テレワークを推進する企業などでは、その急激なテレワーク化もあって、様々な課題が噴出しています。

 現場では各課題に関係しそうな人や物・サービスなどが色々見えてきて、複雑に絡み合って、どうやって諸課題に対応してよいかわかりづらいという悩みを抱えているビジネスマンの方も多いと思います。

 実際、私が勤務する会社でも多くの課題が生じて、今でも悩みは尽きません。

 しかし、課題の原因の所在が分からない、はっきりしない、はっきりさせない状態が続くとその解決に向けた処方箋を書くことは難しいままです。

 そこで、テレワークに関する様々な書籍、文献、実体験などを研究し、テレワークの課題をその原因の「主な」所在で、大きく2つに分類しました。さらに、内部課題、外部課題共に3つに分類しました。

内部課題

 内部課題は 、「①働く場所の課題 」「②自己管理」「③経済的課題」に分類されます。

働く場所の課題 働く場所に原因がある課題

① 働く場所の課題

 テレワークとなって、働く場所が職場から自宅やサテライトオフィス・コワーキングスペースなどに変わった方も多いと思います。

 中でも働く場所が自宅となったテレワーカーが多いです。総務省の白書によれば、テレワークをしたことがある人が38%、在宅でテレワークをしたことがある人が34%となっており、自宅でテレワークをする人がほとんどとなっています(出典:「令和3年版情報通信白書」(総務省))。

働く場所に人的・物理的な環境変化が起こります。

 自宅の環境は職場の環境と大きく異なります。同僚・部下・上司は周りにいません。逆に子供・親・妻または夫などの家族が働く場所のすぐそばに一緒にいることもあります。

 コワーキングスペースには専用室がないところが多く、企業秘密漏洩などのセキィリティ問題を発生させる場合もあります。

 このように人的な環境が職場と自宅などで大きく異なります。

 また、プリンター、コピー機、ネットワーク機器、机、椅子、照明、空気環境、周辺からの音など物理的な環境も職場と自宅などでは大きく異なります。

 新しい働く場所における人的・物理的な環境変化を和らげる課題が「①働く場所の課題です。

 働く場所の課題として、例えば、 子供がオンライン会議中に部屋に入ってきて仕事の邪魔をする、椅子の座り心地が悪く腰痛や肩こりが激しくなる、こういった変化が仕事に及ぼす影響を緩和する課題が挙げられます。

自己管理 新しいワークスタイルが心身に及ぼす影響に起因する課題

自己管理

 新しいワークスタイルは心身に影響を与えます。

 職場は広くて自宅から距離もあるので、職場で働く場合には「歩く」ことが多い一方で、自宅は職場に比べて狭い場合が多く、出歩く機会も減りがちなので、「歩く」ことが必然的に少なくなります。このような身体の運動量も変化します。

 あるいは、在宅テレワーカーは、自宅に籠もりがちになり、広く外に出て働いていた時と比べて、人との接触が少なくなりがちです。

 とりわけ、テレワークの急速な普及の大きな原因は新型コロナウィルスの流行だったため、会話する量も以前と比べて減った方も多いと思います。

 多くの方は自宅に働くスペースを特別に設けておらず、自宅では私生活の環境と働く環境が明確に区別されていない場合もあります。

 例えば、独身でワンルームマンションに住む会社員の場合、働くすぐそばに、私生活で使用するテレビ、ベット、冷蔵庫や洗濯機などが存在し、在宅テレワークでは、公私の区別を難しくさせます。

 新しいワークスタイルが個人の心身に及ぼす影響を和らげる課題が「② 自己管理です。

 自己管理として、運動不足で太りがちになった、人と会話することが少なくなり気分が滅入る、勤務時間中でも机のすぐそばにあるベットに横たわってついついスマホをいじりがちになる、こういった新しいワークスタイルが与える心身上の影響を緩和する課題が挙げられます。

経済的課題  新しいワークスタイルによって新たに発生した金銭的な負担に関する課題

③ 経済的課題

新しいワークスタイルは新しい金銭的負担を与えます。

 働く場所が変わったことに伴って、以前は会社が負担していた光熱費・水道代・備品代・書籍代・ネットワーク利用料・ワークスペース利用料などの一部が、テレワーカーに新たに発生する場合があります。

 また、 ①働く場所の課題や②自己管理的な課題を解決するためにどうしても個人の金銭負担が高まることがあります。

 例えば、子供がオンライン会議中に部屋に入ってきて仕事の邪魔をするので自宅にあらたに簡易な個室スペースを設けた、 運動不足で太りがちになったので近くのフィットネスに通うようになった、 腰痛や肩こりが発生しないゲーミングチェアを新たに購入した、などの場合に発生する新しい金銭的負担です。

 新しいワークスタイルが招く新しい金銭的負担を軽減する課題が、「経済的課題です。

 例えば、外食を控えて自宅で料理することで家計負担の総和を減らす、会社に費用の一部の負担をお願いする、個人スマホを通信無制限にしつつテザリングで仕事用PCのネットワークをまかなう、月額負担が少ないモバイルWi-Fiに切替える、副業する、給料が高い会社に転職するチャレンジをするなどの工夫や取り組みによって 新しい金銭的負担を軽減していきます。

外部課題

 外部課題は、従業員が勤める会社・団体や所属する部門、フリーランサーに仕事を依頼する雇用主など「組織」に主に起因する問題です。

 テレワークは組織にどのような影響を与えたのでしょうか。

 影響を一言で言えば、 個人は組織に属する者ではなく、組織とイコールの関係にある者に変化させたということです。

個人と組織の関係

 従前、大勢の個人が会社や組織が提供する同じ場所で働いていました。これが会社や組織と個人を強く結びつける大きな力の要因の1つとなっていました。

 しかし、個人が働く場所がバラバラになったことで、個人と組織の関係はさらに緩やかになったと言わざるを得ません。

 1986年の労働者派遣法の施行をきっかけに、会社や組織の雇用形態が正社員から派遣・契約社員へ大きくシフトしていきました。雇用形態の多様化は個人と会社や組織と個人の結びつけを緩やかにしました。

 2018年1月、政府は働き方改革の1つとして、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」「改定モデル就業規則」を作成しました。2018年、原則的に副業は認められるべき、という国策が始まりました。副業解禁も雇用形態の多様化と同様に会社や組織と個人の結びつけを緩やかにしました。

 2020年の新型コロナウィルスの流行をきっかけとしたテレワークの普及は、個人と組織の物理的な距離を遠ざけることで、個人と組織の関係はさらに緩やかになりました。

 個人と組織の関係が弱まれば、その新しい関係に適合するように、組織は個人にはたらきかけるやり方や内容を変えないといけません。この変化こそが外部課題です。

 外部課題は 、「①組織管理 」「②コミュニケーション」「③電子化」に分類されます。

組織管理 コミュニケーション・電子化以外の組織課題

① 組織管理

 組織管理とは、組織内の個人間のコミュニケーションやテレワークに必要な電子化整備を除く、組織がテレワークに応じるための様々な課題を総称するものです。

 組織管理は、勤怠・労務・人事管理、マネージメント、および、就業環境整備に関係する課題です。

勤怠・労務・人事管理

 テレワークを行う個人に対しても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法が適用されます(出典「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」厚生労働省、2021年3月)。

 テレワークは、組織の勤怠・労務・人事管理に対し新しい課題を与えます

 例1)時間外労働管理に関する課題

 テレワークによって、組織は個人がどれくらいの時間働いているかを把握しづらくなりました。

 ガイドラインが説明するように、テレワークする個人に対しても労働基準法の他労働関連法が適用されます。組織は個人に法律で定まる上限を超えた残業をさせると罰則の適用対象となります。

 したがって、組織はテレワーカーの残業を適正にする仕組みを整える課題を抱えることになります。

 例2)メンタルヘルスに関する課題

 テレワークでは、周辺に上司や同僚がいない場合が多く、個人のメンタルヘルスの変調を上司などが気づかないことも多いです。

 したがって、組織では、個人の健康相談、健康教育、健康診断、ストレスチェックの仕組みをテレワーキングに合せて修正していく課題が発生します。

 例3)研修に関する課題

 人事管理では、新入社員研修、職務研修、マネジメント研修など各種の研修を立案・実施します。

 職場に一斉に従業員が集まる時代では、1つの場所に多くの従業員が集合し、その場所を生かした研修も行われてきましたが、テレワーク化が進むことで、オンラインを前提とした研修に切替えていくという課題が生まれてきます。

 また、新人研修の1つとして、テレワークの仕方を講義する研修を設けるといった取り組みも求められます。

マネージメント

  個人と組織の関係が弱まれば、その新しい関係に適合するように、組織は個人にはたらきかけるやり方や内容を変えないといけません。

 この変化が外部課題ですが、外部課題の中心は「マネージメント」の変化です。

 テレワークのマネージメントはそれ自体で一冊の書籍になるくらい大きなテーマです。

 テレワーク時代となって、個人と組織の関係が弱まります。したがって、以前と比べて、個人がより独立的になります。

 マネージメントの課題は、個人の独立性・生産性を高めるような創意工夫と、独立性を高める創意工夫を実施するに際して、あらたに発生する課題に大きく分けられます

1) 個人の独立性・生産性を高めるような創意工夫

 厚生労働省主催の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会第1回」(2020/8/17)では、テレワークの課題が議論されました。

 代表的な課題として、「上司から公平・公正に評価してもらえるか不安(31.4%)」が挙げられています。

 テレワークになると、組織は、個人の仕事の過程を詳しく把握することが困難になります。したがって、組織は、個人の評価対象を「仕事の過程」から「仕事の成果」にシフトしていく必要があります。

 従業員の独立性・生産性を高めるために、組織は 仕事の成果を重視する新しい評価法を創意工夫する必要があります。

 職種によっては、また、個人によっては、テレワークに向かない場合もあります。このような個人や仕事にまで一律にテレワークを適用すると、かえって、仕事の生産性が低下しかねません。

 そこで、 職種や個人に応じて、テレワークを適用する、一部にテレワークを適用する、全くテレワークを適用しないなどの仕分けの創意工夫が必要です。

2) 個人の独立性・生産性が高める相違工夫を実施するに際して、あらたに発生する課題

 組織は、テレワーカーの独立性・生産性を高めようとする工夫の中で、テレワーカーに新しい負担を強いる場合があります。

 例えば、 個人に発生する内部課題の1つである「経済的課題」が発生してしまう場合があります。そのような時に、組織が個人の「経済的課題」の解決を支援することが求められます。

 また、 個人の独立性・生産性が高まった結果、組織に対する忠誠心や親しみが減り、組織を辞めてしまう場合もあります。

 このような優れた個人はむしろ組織に留まって組織に貢献して欲しいことから、組織が優れた個人が組織を選びつづけてくれるような創意工夫が必要です。

就業環境整備

 テレワークが進むことで、多くの個人がネットワークを利用して、組織のリソースに集中的にアクセスすることになります。

 組織情報の中には機密情報も多く含まれるため、リモートワーカーは、ネットワークを介して組織のリソースにアクセスする場合、ネットワークのセキュリティを向上する目的で、VPN(仮想施設網)を使うことが一般的です。

 しかし、組織の中には、一部の個人が VPN利用することを前提にネットワーク設計していたところも多く、一斉に個人のテレワークが進んだことで、いわばVPN渋滞が発生してしまった会社も多いと思います。

 また、セキュリティ漏洩などの課題もあらたに発生しています。

  ・ 私用のスマートフォンを利用し、セキュリティブリーチを発生させてしまった。

  ・コワーキングスペースを利用する際、後ろから第三者にPCの画面を覗かれてしまった。

  ・カフェのフリーWi-Fiを利用したことで、セキュリティが脆弱になり、トラブルが発生してしまった。

 テレワークの情報通信をセキュアかつ高速に行えるためのインフラ整備という新しい課題も生まれています。

コミュニケーション 組織内外の個人間の様々な交流に関する課題

② コミュニケーション

 

 仕事を円滑に進める上で、個人間のコミュニケーションは大切です。

 コミュニケーションの種類や目的は様々です。

 部下が上司へ報告・相談・連絡するといったコミュニケーションもあります。

 個人間のちょっとした雑談も息抜きや一体感のために重要です。

 他の部門や組織の人との非定型な雑談から仕事のヒントが得られることもあります。

 同僚に声がけして励ましたり異変に気づくこともあります。

 テレワーク化が進むことによって、互いに顔をほとんど合わせず、各個人がソロワーク化してきて、 様々なコミュニケーションが多くの組織で希薄になってきました。

 実際、 厚生労働省主催の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会第1回」(2020/8/17)では、

  ・社内コミュニケーションが減った(45.3%)

  ・上司・部下・同僚とのコミュニケーションがとりにくい(37.7%)

  ・非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくく不安(32.2%)

と、 テレワークの大きな弱点「コミュニケーション」の課題が多く挙げられています

 他にも、テレワークに必須のWeb会議(ZOOM、Teams)などでは、会議中にシーンとしてしまう、上司の独演になってしまうなど、相互の情報交換さえ働いていないケースもあります。

 こういった、様々なコミュニケーション課題に取り組むことは重要です。

電子化 テレワーク時代に対応する商慣行や事務処理の改善

③ 電子化

 新型コロナウィルスの流行によって、一気に進んだテレワーク。

 組織の仕組みがまだまだテレワークに追いついていません。

 紙・判子を必要する業務がテレワークの障害となって、組織全体の生産性を下げる原因の1つとなっています。

 例えば、組織間の契約には代表者のサインが必要、経費処理に経費を使った個人と上司の捺印が必要、購買契約の実施などの社内決済にサインや判子が必要といった状態のままで、テレワークを進めた組織も多いと思います。

 書類に捺印・サインするためだけに、わざわざ職場に出勤するというにはいかにも生産性が低下しそうです。

 電子印鑑システムや電子契約システムの導入など、 テレワーク時代に即した商慣行の改善や事務手続きを講じるといった新しい課題も生まれています。

具体的な課題

 テレワークの課題は内部課題と外部課題に大分類され、内部課題は「①働く場所の課題 」「②自己管理」「③経済的課題」に、外部課題は「①組織管理 」「②コミュニケーション」「③電子化」に小分類されます。

 このような体系で分類されるテレワークの具体的な各課題については、別の記事でまとめました。

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